日本海フェスティヴァルオーケストラ(以下、日本海フェスオケ)は、福井のオーケストラ文化のさらなる向上を考える中から生まれました。
福井大学フィルハーモニー管弦楽団(以下、福井大学フィル)の客演指揮者を4年務め、2019年度より同団史上40年ぶりとなる常任指揮者に就任した木許裕介(日本海フェスオケ芸術監督・指揮者)。日本滞在中の多くの時間を福井で過ごし、「もはや福井は第二の故郷のような場所」と語る彼が、福井の音楽文化のさらなる活性化に貢献したいという想いから、福井大学フィルOB有志と一緒にこのオーケストラを立ち上げました。
このオーケストラでは、木許氏のもとで様々なプロジェクトを展開していますが、その背景には木許氏ならではの、オーケストラ文化に対する危機感と、福井に対する熱い想いがあります。たとえば、2019年夏に開催した「みくに初見キャンプ vol.1」は、ただ初見大会をやって楽しもうというのではなく、福井のクラシック音楽文化の課題解決および福井の観光文化の活性化に寄与したい、という想いから作られたものです。
このオーケストラを通じて何が成されるか?
木許裕介芸術監督によるコメントを掲載しています。
大学オーケストラ特有の「編成」問題を超えて、もっと幅広いレパートリーに触れることができる。
大学オーケストラには、編成や団員数、予算や技術などの問題から、実は極めて強い曲目の制約があります。しかもしばしばそれは大学オーケストラに限った話ではないのです。北陸のアマチュアオーケストラの20年ぐらいの演奏曲を調べてみたところ、レパートリーが意外と限定されているなという印象を受けました(もちろんそのなかでも、福井交響楽団さんをはじめチャレンジングな選曲をされている団体もたくさんあります)。確かにあまり演奏されてこなかった曲にはそれなりの理由があるのも事実で、コンサートで演奏するとなると色々大変なのですが、「遊びで合わせてみよう!」となるともっと気軽に色んな曲ができるはずです。参加した方にとっても、客席で聞いてくださった方にとっても、「お、こんないい曲があるんだ!今後自分の団でもやってみたい」としてレパートリーを広げるきっかけになればと思っています。
世界で研鑽を積む若手プロ奏者と一緒にオーケストラに乗ることで、「オーケストラのなかでどう演奏すればいいのか」という点での実地レッスンを受けることができる。
「プロから音楽をマンツーマンで教わる」という点での個人レッスンの機会は福井に少なからずありますが、オーケストラのなかでレッスンを受ける機会というのはあまり多くありません。それはこの県に、いわゆる「音楽大学」が無いということとも関係しているのかもしれません。ここで重要なのは「若手」プロ奏者であるということです。たとえば福井大学フィルの学生さんとも年齢があまり変わらないが、音楽の道に邁進しているような若手プロ奏者と一緒することで、人生選択の多様さや同年代としての刺激を互いに受けてもらえると思います。
県内のオーケストラプレイヤーとはもちろん、県外のオーケストラプレイヤーとも繋がる機会を作ることができる。
福井のオーケストラ同士の交流はかなり成されているようですが、合同オーケストラなどの機会はあまり多くないようです。かつ、県外のプレイヤーと福井で合同オーケストラをする機会は、極めて稀だと聞いています。(以前開催されていた「北陸アマチュア・オーケストラ・フェスティバル」のように、福井から県外に出かけて行って合同演奏をする機会は少なからずあるようです。)
音楽祭の魅力、滞在型の音楽体験 - 演奏+宿泊+飲食、福井の観光活性に寄与したい。
五年間福井で指揮して私が強く思うことは、福井はほんとうにいい土地であるということ。私が知っているのは福井市と坂井市のほんの僅かなエリアに過ぎないのですが、それでも一切飽きないほど魅力的な場所です。ぜひみなさんに来て頂きたい。来て、泊まって、食べて頂ければ必ず好きになってもらえると確信しています。福井には蟹もあれば魚(最近は「ふくいサーモン」がアツい!)もあり、若狭牛もあればおろし蕎麦もあります。お米は「コシヒカリ」発祥の場所で最近は「いちほまれ」も誕生したし、日本酒では黒龍,凡,花垣,白岳仙,常山,九頭龍,早瀬浦,一本義,紗利, 伝心,越前岬…と書ききれないほど銘酒があります。焼き鯖寿司はいつ持ち帰っても旨いし、秋吉の焼き鳥は純鶏を40本ぐらいテイクアウトしてもペロリとイケてしまう。お世話になっている割烹の大将の包丁さばきはいつまでも見ていたいと思えるほど芸術的だし、白えびのかき揚げをあんなにふわふわに焼けるなんて神業としか思えません。
実際、この五年間で私の友人たちが100人ぐらい遊びに来てくれて、みんな福井のファンになってくれました。だけど、もっと来て欲しい!!!まず来る機会がなければ良さは知ってもらえないので、オーケストラという営みを通じて、福井に来てもらえる機会を作りたいと思うのです。もうすぐ新幹線が通ろうとする今こそ、福井を盛り上げることに音楽で少しでも貢献できるのではないか。日本はもちろん世界のアーティストに福井に集ってもらって、この良さを知ってほしい!一回来たら絶対ハマるから!!そんな確信を抱いています。
日本海フェスティヴァルオーケストラという取り組みはこうした考えから生まれたものです。初見キャンプでは、思いに共感してくれた友人たちが、日本全国はもちろんウィーンやスイスからも駆けつけてくれることになりました。そして福井大学フィルをはじめ、これまで一緒に演奏してきた福井や日本海沿岸の方々も次々と参加の連絡を下さっています。
やるからには、中途半端にやりたくはありません。ここでめいっぱい面白いことをしたい。そして、それが一回限りではなく続いていくようにしたい。いつかは、お盆の時期にたくさんの公演が織りなされる「フェスティヴァル」のようにしたいのです。日本海フェスティヴァルオーケストラという壮大な名前には、そんな未来を込めています。ですからこのオーケストラの「遊び」は初見大会だけに留まらず、もっと柔軟に色々なことに挑戦していきますし、さらに刺激的なことも考えています。
大きな夢を書いてしまいましょう。昨年の国際指揮コンクールで指揮したポルトガルのオーケストラ(Atlantic Coast Orchestra!日本語にすれば「大西洋岸オーケストラ」です。)や、つい先日指揮したばかりのモロッコ-カサブランカの合唱団など、海や音楽祭を共通項として、これまで・これから縁のある音楽家たちを福井に招いて合同演奏をしたいのです。日本海と大西洋ゆかりのオーケストラ・合唱団で合同演奏-お祭りなんてワクワクしませんか?途方もないと思われるかもしれませんが、実はモロッコの合唱団とは既に話を始めています。また、そこで出会ったスペインのマドリード・フェスティヴァル・オーケストラの芸術監督とも、お互いコラボレーションすることを決めました。これがもっと繋がっていって、いつかはみんなで合同演奏ができれば…そんな将来を妄想しています。
こんな大きな構想に共感してくださり応援してくださる方々や友人たちには本当にどれだけ感謝しても足りません。旅情ある電車にゆったり乗り、めいっぱい音楽して、美味いものを食べて、温泉に浸かって日本酒で気持ちよく酔う…。そんなオーケストラにしたいですね。
ちなみに、福井は皆さんが想像するより「すぐ近く」にあります。大阪からサンダーバードで2時間弱・片道5000円ちょっと。名古屋からも同じぐらいです。東京からも、羽田空港→小松空港→バスで福井と行けば2時間ぐらいです。
私が大好きな音楽と、大好きになった福井をみなさんに楽しんでほしい。沢山の方々と一緒できることを心待ちにしています。